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- 相続土地国庫帰属の承認2,100件超
2025/12/01
相続土地国庫帰属の承認2,100件超
令和5年(2023年)4月にスタートした『相続土地国庫帰属制度』。施行から約2年半が経過し、私たちの相談所にも「実家の遠い山林を手放したい」「誰も継がない田舎の宅地を国に引き取ってもらえないか」といったご相談が日々寄せられています。
そんな中、法務省より『令和7年11月28日公表(10月31日時点)』の最新運用状況が発表されました。
今回の発表数値は、これから制度利用を検討されている方にとって、非常に示唆に富む内容となっています。単なる数字の羅列ではなく、「実際にどれくらいの人が審査を通過しているのか」「なぜ断られてしまったのか」という現実は、皆様の今後の相続対策を左右する重要な情報です。
本日は、この最新データを分析し、制度の「現在地」と、申請を成功させるための「攻略法」について解説していきます。
『申請 4,500件突破』の裏で見える実情
まずは全体像を見てみましょう。令和7年10月31日時点での総数は以下の通りです。
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申請件数:4,556件
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帰属(承認)件数:2,145件
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却下・不承認件数:148件
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取下げ件数:801件
この数字をどう見るべきでしょうか。 「4,500件以上も申請されている」という事実は、それだけ日本全国に「負動産や腐動産(手放したい土地)」を抱えて悩んでいる方が多いことを裏付けています。

一方で、注目すべきは『帰属(承認)件数』が申請数の約半数( 47%)にとどまっている点です。
もちろん、現在審査中の案件も多数ありますが、申請すれば「右から左へ簡単に国が引き取ってくれる」という甘い制度ではないことが、この数字からも読み取れます。
特に私たちが注目したのは、『取下げ』が 801件も存在するという点です。
これは、却下や不承認の件数(合計 148件)をはるかに上回っています。
「取下げ」とは、申請者自らが申請を取りやめることです。
なぜ、これほど多くの方が途中で断念しているのでしょうか。
これには大きく分けて2つの理由があります。
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審査途中で「却下・不承認」の可能性を指摘された 実地調査などの段階で、担当官から「このままでは要件を満たしません」と示唆され、正式な不承認処分を受ける前に自ら取り下げたケースです。これは事実上の「審査落ち」と言えます。
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もっと良い解決策(売却・寄付など)が見つかった 制度への申請をきっかけに、隣地の所有者や自治体、あるいは地元の農家などが「それなら私が引き受けよう」と名乗りを上げてくれるケースです。これは申請者にとって「嬉しい誤算」であり、最もハッピーな結末と言えるでしょう。

『地目別』に見る難易度の格差〜山林所有者への警鐘〜
次に、土地の種類(地目)別のデータを見ていきます。
ここに、制度の利用を考える上で最も注意すべき傾向が現れています。
【申請時の地目内訳】
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田・畑: 1,755件
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宅地: 1,588件
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山林: 715件
【帰属(承認)時の種目内訳】
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宅地: 784件
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農用地: 697件
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森林: 132件
いかがでしょうか。
「田・畑」や「宅地」は、申請数に対して順当に承認数が増えていますが、『山林(森林)』のハードルの高さが際立っています。
申請件数が 715件あるのに対し、実際に国庫に帰属したのはわずか 132件。
単純比較はできませんが(審査期間のタイムラグがあるため)、山林の審査がいかに慎重に進められているか、あるいは審査に時間がかかっているかが浮き彫りになっています。
相続において最も厄介なのが「遠方の山林」であるケースが多いのですが、皮肉にも、その山林こそが「国に引き取ってもらうのが最も難しい」という現実があります。
後述する「不承認の理由」でも、森林特有の問題が大きく影を落としています。
『なぜ断られるのか?』148件の不成立理由を解剖
今回の公表データで最も価値があるのが、『却下( 74件)』と『不承認( 74件)』の具体的な理由です。
ここには、これから申請する人が絶対に避けるべき「失敗リスト」が詰まっています。
1. 却下(門前払い)の主な理由
却下とは、審査の中身に入る前、形式的な要件不足で弾かれることです。
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書類不備( 35件): 法第 3条や施行規則で定められた添付書類が提出されなかったケースです。これは専門家に依頼せず、ご自身で手続きを進めようとして挫折されたケースが含まれている可能性があります。
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境界が明らかでない( 18件): やはり出てきました。「境界問題」です。隣地との境界標がない、あるいは隣人の同意が得られず境界が確定できない土地は、そもそも申請の土俵に立てません。
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通路として使用中( 18件): 私道や、地域住民が慣習的に通路として使っている土地も対象外です。
2. 不承認(審査落ち)の主な理由
不承認とは、書類は整っていたものの、実地調査などの結果「国が管理するには不適切」と判断されたケースです。
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放置された工作物・樹木( 35件): これが不承認理由の第1位です。古い小屋、崩れかけた廃屋、放置車両、あるいは管理を阻害するような巨木や竹林などが残っている場合です。「更地にする費用がないから国に返したい」という要望は通りません。あくまで「きれいな状態」でなければ引き取ってもらえないのです。
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整備が必要な森林( 32件): これが先ほどの「山林の承認数が少ない」理由の核心です。間伐や枝打ちが行われておらず荒廃した森林や、国が追加で整備をしなければならない森林は不承認となります。単に「木が生えている」だけではダメで、「ある程度管理された森」でなければならないという厳しい現実があります。
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災害防止措置が必要( 10件): 崖崩れや土砂流出の危険があり、擁壁(ようへき)などの工事が必要な土地も断られます。
『出島不動産相続相談所』の見解と対策
今回の令和7年11月の速報値を見て、私たち専門家が感じることは以下の3点です。
① 「とりあえず申請」は時間の無駄になる可能性が高い
却下・不承認・取下げの合計が 1,000件近くに上ることから、事前の調査不足のまま申請に踏み切っているケースが多いと推測されます。
特に「境界の明示」と「残置物の撤去」は、申請者の責任で完了させておく必要があります。
これらを解決するコスト(境界標設置や解体費)と、制度利用時の負担金(20万円〜)を合計した金額が、将来的な固定資産税や管理費に見合うかどうか、心理的な負担軽減などにより負担金を許容できるか、未来に対する冷静な『判断』が不可欠です。
② 山林は「事前整備」が鍵
「荒れ放題の山」は、ほぼ間違いなく不承認、あるいは審査段階での取下げ勧告を受けることになります。
山林を申請する場合、現況がどうなっているか、間伐等の手入れが必要かどうかを、地元の森林組合等に確認しておく等の準備が必要です。
③ 「取下げ」をポジティブに捉える
統計上の「取下げ 801件」の中には、「申請手続き中に隣人が買い取ってくれた」というケースも少なからず含まれています。
国庫帰属制度への申請は、ある意味で「国へ返すための公的なアクション」を起こすことです。
これがきっかけとなり、周囲の土地所有者が「国に管理されるよりは自分が貰い受けたい」と動き出すことがあります。
制度への申請を、「土地処分のための最終手段へのトライアル」と位置づけ、結果として民間取引に落ち着くのであれば、それはそれで大成功と言えると思います。
まとめ:あなたの土地は『合格』できるか?
最新の統計は、相続土地国庫帰属制度が「魔法の杖」ではないことを如実に示しています。
特に以下の条件に当てはまる土地は、要注意です。
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『境界杭』が見当たらない、隣家との境界確認ができていない。
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『古い建物』や『倉庫』、『放置車両』が残っている。
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『手入れされていない山林』である。
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『他人の通り道』になっている。
しかし、逆に言えば、これらの要件さえクリアできれば、既に 2,000件以上の方が無事に土地を手放すことに成功しています。
「宅地」や「農用地」に関しては、適切な準備を行えば、承認される確率は十分に高いと言えます。
「うちの土地はどうだろう?」
「申請すべきか、売却を目指すべきか迷っている」
そんな方は、ぜひ一度『出島不動産相続相談所』にご相談ください。
私たちは、単に制度の手続きを代行するだけではありません。 今回の統計データのような客観的な事実に基づき、 「そもそも申請が通る見込みはあるか」 「申請前にいくらの費用をかけて整備すべきか」 「民間で売れる可能性はないか」 を総合的に診断いたします。
令和7年も残りわずか。
来年に向けて、長年の肩の荷を下ろす準備を一緒に始めませんか?
※本記事は法務省公表の「令和7年11月28日 相続土地国庫帰属制度の運用状況」の速報値に基づき作成しています。
個別の事案については必ず専門家へご相談ください。


